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フルカラー印刷に必要な画素サイズ
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図1. 2×2のマス目で表現できる階調数 | |||||||||||||||||||||||||
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ここで、濃淡(階調)の情報量(bit; ビット)を考えてみます。ビットというのは2進数で表現することであり、1ビットは有るか無いか(1と0で表現するのが通例)の2値。2ビットなら4値、Nビットなら2N値です。これと同じ事がドットにも当てはまります。1つのマスにドットを打つか打たないかはビットと同じ関係にあります。対応させると以下のようになります。
ドット数 | 1 | 2 | 3 | 4 | … | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|
ビット数 | 1 | 2 | 3 | 4 | … | 10 |
表現数 | 2 | 4 | 8 | 16 | … | 1024 |
例として、2bit、4bitで表現できる4値、16値を示します。
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ここでふと気付くと思いますが、例えば4つのドットで表現できる値に着目すると、冒頭で述べた階調数は、ドット数+1ですから5値、それに対して対応すると述べた4ドットは16値。なぜ違うのでしょう?
4bitの表で、「1の数」の欄を見ると、0から4までの5段階がある事が分かります。5といえば…ドット数+1(階調数)と同じです。実は、平面に並べたマス目の場合でも、ドットがどの位置に有るのかという「位置情報」をも加味すれば4ドットで16パターンを表現できます。例えば1つのドットを置くにも4隅の左上・右上・左下・右下の4通りあります。しかし、濃度の観点から見ると、ドットがどこに有ろうとも1つなら1つ分の濃さしか示しません。この事から分かる通り、情報理論でいうところの情報量(bit)は「ドットの配置パターン数の情報量」を意味しており、濃度段階(階調数)とは一致しません。これ以降「情報量」という単語を用いる場合は、特に断りの無い限り、階調数(または色数)の意味で用いますから、単純なビット演算での情報量(=ドット配置パターン数)とは混同しないように気を付けて下さい。
単純にドット数(=ビット数)と階調数が一致しないことを確認した上で、階調数と解像度を情報量に換算して考えてみます。
3×3マスの9値を2xで表現すると、x = log29 = log109 / log102 = 3.1699…≒3.17により、9 = 3.17bit(9 = 32なので、x = log232 = 2×log23として計算しても同じです)。整数で扱うなら約3bit(= 23 = 8)です。n×nマスに拡張した場合も同様で、表現数はn2+1なので、そのビット数は log2(n2+1)bitです。nが非常に大きい場合なら、表現数の漸近値は n2なので、そのビット数は log2n2 = 2×log2n bitです。
一方の解像度(ppi; pixels per inch)は画素を構成するマスの数(=画素面積)を広げるに従って低下し、(1/画素面積)の平方根に比例します。例えば、1マスが1/600インチ四方サイズであった場合に2×2の4マスを1画素とすると、解像度は300ppi、4×4を1画素とすれば150ppiになります。
マス目のサイズをそのままに画素を構成するマス目を増やす場合、マス目の数n2に対して階調数はn2+1、一定面積当たりの画素の数が(k/n)2、解像度がk/nであるので、階調数×画素数=階調数×解像度2 = k2×(1 + 1/n2)です。つまりn→∞に対して積は2k2→k2という具合にk2に漸近します(kは定数)。nが非常に大きい場合は、積=一定と見なすことができます。
なお、この積をビットで表わすと、2×log2k + log2(1+1/n2) bitとなります。
但し、1マスの面積を固定したまま大きな画素を形成していく場合(画素面積が増えていく場合)と、画素サイズ(面積)を固定しながらマス目を小さくする場合とで、解像度2と画素を構成するマス数の関係が逆になりますから注意が必要です。なお、このページの議論は前者(マス目の面積固定)です。数値を示す方がわかりやすいと思うので、スプレッドシートでざっと計算した例を示します(小数点第5位以下切り捨て)。
画素の1辺 Nマス | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 10 | 100 | 1000 |
画素構成数 N2 | 1 | 4 | 9 | 16 | 25 | 100 | 10000 | 1000000 |
解像度 | 1 | 0.5 | 0.3333 | 0.25 | 0.2 | 0.1 | 0.01 | 0.001 |
階調数 (=N2+1) | 2 | 5 | 10 | 17 | 26 | 101 | 10001 | 1000001 |
階調数 bit | 1 | 2.3219 | 3.3219 | 4.0874 | 4.7004 | 6.6582 | 13.2878 | 19.9315 |
階調数×解像度2 | 2 | 1.25 | 1.1111 | 1.0625 | 1.04 | 1.01 | 1.0001 | 1.0000 |
↑欄のbit | 1.0000 | 0.3219 | 0.1520 | 0.0874 | 0.0565 | 0.0143 | 0.0001 | 0.0000 |
画素の1辺 Nマス | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 10 | 100 | 1000 |
画素構成数 N2 | 1 | 4 | 9 | 16 | 25 | 100 | 10000 | 1000000 |
解像度 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 10 | 100 | 1000 |
階調数 (=N2+1) | 2 | 5 | 10 | 17 | 26 | 101 | 10001 | 1000001 |
階調数 bit | 1 | 2.3219 | 3.3219 | 4.0874 | 4.7004 | 6.6582 | 13.2878 | 19.9315 |
階調数/解像度2 | 2 | 1.25 | 1.1111 | 1.0625 | 1.04 | 1.01 | 1.0001 | 1.0000 |
↑欄のbit | 1.0000 | 0.3219 | 0.1520 | 0.0874 | 0.0565 | 0.0143 | 0.0001 | 0.0000 |
600dpiの基本マス目をN2マス集めて画素とした場合の情報量(=表現できる階調数)を具体的に計算してみると下表の通り (2×log2600≒18.458へ収束していきます)
画素構成数 N2 | 画素 ppi | 階調数 | 階調bit | 情報量(色) | 情報量(bit) |
---|---|---|---|---|---|
1 | 600 | 2 | 1 | 720,000 | 19.46 |
4 | 300 | 5 | 2.322 | 450,000 | 18.78 |
16 | 150 | 17 | 4.087 | 382,500 | 18.55 |
1つのマスにドットを置くか置かないかの2階調だけでなく、ドットサイズや濃度を可変させる事によって3階調以上を表現できる場合(例:レーザープリンタやALPS社のMDシリーズ)について、簡単に拡張説明します。
先の§1.1.1 図1において、ドットが在るか無いかの2階調(=0と1)の場合に2×2の4マスで表現できる階調数は5と示しました。0と1を4マスに配置したとき、その配置に関わらずドットの数が各々異なる種類として、0, 1, (1+1), (1+1+1), (1+1+1+1) の5種類しか取り得ないからです。これをドットなし(=0)、濃度1、濃度2の3種類を配置する場合で考えてみると、0, 1, 2, (1+2)=(1+1+1), (2+2)=(1+1+1+1), (1+2+2)=(1+1+1+2), (2+2+2)=(1+1+2+2), (1+2+2+2), (2+2+2+2) の9種類あることが分かります。
※濃度が等分割であり、1+1=2のように加算したときに等しい濃度が存在する場合。
単一ドットで2階調のものを4マスに配置した場合に5階調、3階調のものを4マスに配置したら9階調であることに関連性を見出すと次の事がわかります。
単一ドットの階調数がCのものを、Nマス=縦横nマスによるn2マス(それを画素とみなす)に配置した場合、
画素の階調数=(C-1)×N + 1=(C-1)×n2 + 1
カラー画像の場合はドット自体が複数の色を表現できるようになるだけで、考え方はモノクロ画像と同じです。それぞれの色が表現できる階調数を求めて、色の数だけ乗じれば全部の組合せが求まります。
1つのマス目に3色のインクドット、C(シアン)/M(マゼンタ)/Y(イエロー)を組み合わせて配置できる場合に表現できる色数は、各色1bitの3つの組合せなので3bit=8値です(参照:[プリンタの色数:2.1. 表現可能な色の数(理論値)])。これを例えば4×4の16マスを1画素とした場合、各色の表現できる階調数は2H16 = 17値で、その3色組合せとなるので、173 = 4,913色/画素(12.26bit/画素)です。
この時の解像度は、マス目1つのサイズが600dpiである場合には、1/√16 = 1/4 倍した150ppiとなります。同じく、5×5の25マスを1画素とすると、各色26値の組合せなので、263 = 17,576色/画素(14.10bit/画素)、解像度は120ppi。
24bitフルカラーを得る場合のマス数も同様に計算すると、
( n2 + 1 )3 = 224
n = ( 28 - 1 )1/2
n≒15.97
整数値とすれば、n = 16なので256マスです。
C/M/Yにそれぞれの淡い色PC/PM/PYを加えた6色の場合は、1マスで6bit=64値表現できます(あくまで理論値。現実にはインクの重ね合わせに限度があるので1マスの表現可能数は7値程度)。この場合に4,913値を表現するのに必要なマス目をn2個とすると、
( n2 + 1 )6 = 4913
n = ( 49131/6 - 1 )1/2
n≒1.767
つまり2×2 = 4マスあれば十分に表現可能であることが分かります(4マスだと56 = 15,625色(13.93bit))。
その時の解像度はマス目1つのサイズが600dpiならば、300ppiです(n = 1.77での解像度は約339ppiです)。
24bitフルカラーを得る場合のマス数も同様に計算すると、
( n2 + 1 )6 = 224
n = ( 24 - 1 )1/2
n≒3.873
整数値とすればn = 4なので16マスです。
まとめると下表の通り。フルカラーを得るには、淡色インクを用いてもプリンタの持つ解像度の1/4程度にせざるを得ないことが分かります。
C/M/Y 3色システム | |||||
---|---|---|---|---|---|
画素構成数 N2 | 画素 ppi | 色数 | 色bit | 情報量(色) | 情報量(bit) |
1 | 600 | 8 | 3 | 2.880×106 | 21.46 |
16 | 150 | 4,913 | 12.26 | 1.105×108 | 26.72 |
256 | 37.5 | 16,974,593 | 24.01 | 2.387×1010 | 34.47 |
C/M/Y/PC/PM/PY 6色システム | |||||
画素構成数 N2 | 画素 ppi | 色数 | 色bit | 情報量(色) | 情報量(bit) |
1 | 600 | 64 | 6 | 2.304×107 | 24.46 |
4 | 300 | 15,625 | 13.93 | 1.406×109 | 30.39 |
16 | 150 | 24,137,569 | 24.52 | 5.431×1011 | 38.98 |
注:色数×解像度2は一定になりません。各色毎の(階調数×解像度2)は、まとめない時の1/2に漸近していきますが、色数では(階調数)基本色数なので、基本色が3色だと3乗、5色、6色だと5乗、6乗で増えてしまい、一定になりません。
なお、基本色数をc、画素とするドットの数をn2、解像度をk/n dpiとした場合、色数×解像度2 = (n2 + 1)c×(k/n)2より、c×log2(n2 + 1) + 2×(log2k - log2n) bitとなります。
§1では理論的な説明をしましたが、実際には様々な制限があって理論値通りの色数が表現できるとは限りません。例えばインクジェットの場合は用紙がインクを吸収する量に限界がありますから、むやみやたらと色のドットを重ねるわけには行きません。それに関しては、[カラープリンタの色数:1.2. 表現可能な色の数 (実際値)]を参照して下さい。
その現実の値を元にして、具体的な色表現数と解像度を計算してみます。
PM-750Cは淡いインク(フォトインク)を使用するC/M/Y/PC/PM(/Bk)の5 (6)色システムであり、その基本解像度は横1440×縦720dpiです。横方向は常にペアで使われ、インクを2滴落とすことによる色表現を増すためにあり、解像度への寄与はないと思われますから、720dpiシステムとして考えても問題ありません。インクは10pl、かつ横方向を2分割しているため1/720インチ四方に2つのインクを配置できます。これは[カラープリンタの色数:1.2. 表現可能な色の数 (実際値)]にて考察している10pl, 720dpiシステムと同じなので、720dpiのマス目で表現できる色数は21 (28)値です。括弧内はBkを使う場合。2マスでの理論値、各色3階調の色数乗である35=243 (36=729)値は不可能です。
このシステムで24bitフルカラー(=16,777,216色)を表現するための画素を求めます。
各解像度マスにはインク1滴しか落とせないので、インク無し/C/M/Y/PC/PM(/Bk)の6 (7)値を、2×n2マスに配置する重複組合せが本当に表現できる色数です。結果として式は以下の通りになります(Bkを含む場合での式)
7H2n2 = 224
2n2+6C2n2 = 224
2n2+6C6 = 224
(2n2+6)(2n2+5)(2n2+4)(2n2+3)(2n2+2)(2n2+1)/(6・5・4・3・2・1) = 224
(n2+3)(2n2+5)(n2+2)(2n2+3)(n2+1)(2n2+1) = 225・32・5
※ | MS Internet Explorer 4.xx/5.xxでは、式中の添え字の添え字が適切に表示されないので注意して下さい。 2n2のように見えている場合、2×n^2の意味として読み直して下さい。 → 誤表示に関して |
これを解くのは結構手間なので…Excelで式を書いて、誤差が0になるnを探してみました。…すごい手抜き ^-^;
ソルバーで解を求めると、n = 4.71334127984… となりました(何桁まで正しいかはともかく…)。
というわけでn≒4.71(横1440dpiの9.42マス、縦720dpiの4.71マス)なので、画素サイズ(すなわち解像度)はBkを使う場合で720/4.71 ≒ 153ppiです。
もしこれが理論値通りのプリンタで、各基本解像度マス(1440×720dpi)に全ての色を重ねられるのなら、24bitの表現に必要なマス目の数を、横が縦の2倍であることから、2×n2個とすると、基本色の階調数は(2×n2 + 1)。その色数分の累乗が224となるnを求めれば良いので[*1]… | |
Bkを含めない5色の場合、 ( 2×n2 + 1 )5 = 224 n = ( ( (224)1/5 - 1 )/2 )1/2 n = ( 23.8 - 1/2 )1/2 n = 3.6645… |
Bkを含める6色の場合、 ( 2×n2 + 1 )6 = 224 n = ( ( (224)1/6 - 1 )/2 )1/2 n = ( 23 - 1/2 )1/2 n = 2.7386… |
n≒3.66 (2.74)となり(横1440dpiの7.32 (5.48)マス、縦720dpiの3.66 (2.74)マスという意味)、その画素サイズ(すなわち解像度)はBkが使われない場合で720/3.66 ≒ 197ppi、Bkが使われる場合で720/2.74 ≒ 263ppiです。 | |
[*1]【別のアプローチ】 0,1,2の3階調をもつ1/720インチ四方ドットをn2個集めるという考え方もあります。その場合、(階調数-1)×n2+1 となり、同じ式(2×n2 + 1)が得られます。 |
[1999-06-21 追加] 同じ計算をPM-700Cでやってみました。
19pl 720×720dpiなら、インク無し/C/M/Y/PC/PM(/Bk)の6 (7)値を、n2マスに配置する重複組合せなので、
7Hn2 = 224
(n2+6)(n2+5)(n2+4)(n2+3)(n2+2)(n2+1)/(6・5・4・3・2・1) = 224
(n2+6)(n2+5)(n2+4)(n2+3)(n2+2)(n2+1) = 228・32・5
上記と同様にExcelで計算すると、n = 6.66567116…でしたから、解像度はBkを使う場合で720/6.67 ≒ 108ppiです。
念のために別の計算もしてみましょう。C/MはPC/PMを考慮した3階調、YとBkは淡色のない2階調で、それらをn2に配置したものをC/M/Y/Bkの4色で重畳すると考えればよいので、 ((3-1)・n2+1)2)・((2-1)・n2+1)2 = 224 というわけでフルカラー時の画素解像度は、720/6.67 ≒ 108ppiと成ります。2つの計算方法で若干のズレがありますが同等といえます。 |
[2001-02-11 追加] MSDT(マルチ・サイズ・ドット・テクノロジ)を含めたPM-770CやPM-900Cは、計算が面倒そうなので放っておいたのですが、久しぶりに計算してみることにしました。但しPM-770Cはインク体積が6, 10, 19plであり、19plの場合には1440×720dpiの枠に収まらず720×720dpi枠として計算しなくてはならず、あまりにも計算が面倒なのでやはり保留とし、全部のサイズが1440×720dpi枠に収まる(13plは微妙に収まらない気がするけれど…ここでは収まるとみなす)PM-900Cでやってみます。
インク無し/(C/M/Y/PC/PM/DY/Bkそれぞれ2, 5, 13plの3値)の22値を、2×n2マスに配置する重複組合せなので、
22H2n2 = 224
2n2+21C2n2 = 224
2n2+21C21 = 224
(2n2+21)(2n2+20)(2n2+19)(2n2+18)(2n2+17)…(2n2+2)(2n2+1)/(21・20・19・…・4・3・2・1) = 224
(2n2+21)(2n2+20)(2n2+19)(2n2+18)(2n2+17)…(2n2+2)(2n2+1) = 224・(21・20・19・…・4・3・2・1)
上記と同様にExcelで左辺−右辺=0となるnを計算しようとしましたが、n2の21個もの掛け算(つまりn23オーダー)であるがゆえ、nのわずかな変化が急激な変化をもたらし、ソルバーでは答えが得られませんでした。仕方なく数値を連続的に変化させながら値を探した所、n = 2.13742447364173 近辺で-3.6×1012から6.46×1012へと遷移することから、これが解であると見なしました。ということで解像度は 720/2.14 ≒ 336ppiです。
こちらでも別の計算をしてみます。C/M/YはPC/PM/DYのそれぞれで3ドットサイズの合計7階調、Bkは淡色なしで3ドットサイズの4階調、それらを2n2に配置してC/M/Y/Bkの4色で重畳すると考えればよいので、 ((7-1)・2・n2+1)3・((2-1)・2・n2+1) = 224 これをExcelのソルバーで計算すると n = 2.4976736…なので、解像度は720/2.5 ≒ 288ppiです。結果にズレがあるのが気になりますが…… (^^; (笑ってごまかす?)。 |
DJ720Cは基本のC/M/Yの3色だけで表現するシステムであり、基本解像度は600dpi。インクは10plなので、600dpiのマス目に4滴落とすことが可能で、その表現数は8値(=3bit)です(理論的には3H4 = 15値まで可能)(参照:[プリンタの擬似解像度:3.1. DeskJetシリーズの場合])。
プリンタドライバの設計思想に極めて依存するマルチドロップ関連の面倒な話を無視すれば、とにかく1/600dpiインチ四方に3色配置できる理論値通りのシステムなので、各色の階調を3乗すれば良い訳です。(§1.2で取り上げた3色システムと同じ)
従って、24bitの表現に必要なマス目をn2個とすると、
( n2 + 1 )3 = 224
n = ( (224)1/3 - 1 )1/2
n = ( 28 - 1 )1/2
n = 15.9687…
なので、n≒16です。ゆえに画素サイズ(すなわち解像度)は600/16 ≒ 37.5ppiです。37.5ppiは1画素が0.67mm四方という意味ですから、かなり大きく印刷して遠目にみないとジャギー(ブロック状ノイズ)が目立つでしょうねぇ…。
[2001-02-11 追加] deskjet 970Cの場合
DJ720Cと同様に基本のC/M/Yの3色だけで表現するシステムです。但し、基本解像度が600dpiのまま1200dpi相当のインクを噴射するDJ720Cとは異なり、基本解像度がリアルの2400×1200dpiであるらしい点が異なります。単純計算では5plのインクを600dpiのマス目に8滴落とすことが可能なので、理論的な組合わせ数は3H8 = 45値となります。
DJ970Cの場合、基本マス1つにはインク許容量から考慮して1滴だけしか落とせないので、インク無し/C/M/Yの4値を、多数のマスに配置する組合わせを計算する必要があります。24bitの表現に必要なマス目を2×n2個とすると、
4H2n2 = 224
2n2+3C2n2 = 224
2n2+3C3 = 224
(2n2+3)(2n2+2)(2n2+1)/(3・2・1) = 224
(2n2+3)(n2+1)(2n2+1) = 224・3
MD-5000は基本のC/M/Y/Bkの4色で表現するシステムであり、基本解像度は600dpi。名称こそ違うものの熱転写プリンタシステムであり、インクが顔料系で不透明であるため、重ねあわせる事ができません。このため、各色の階調数を色の種類の数で累乗する計算ができません[*1]。とりあえず、24bitの表現に必要なマス目をn2個とした場合のn=2, n=3での色数、およびマス目が10個の場合の色数を計算してみました。
[*1] fj.comp.dev.printerの投稿によれば、各ドットの可変段階が15値である旨と必要ドットは10マスである旨のアルプス電気からの回答があったそうですし、各色ドットの重ねあわせも可能だそうです。
色ドットの重ねあわせに関してはやや懐疑的なので、16階調(15値+インク無しの1値)、重ねあわせ無しの条件で計算すると……
n = 2 (4マス)での値は、112,966値 ≒ 16.8 bit @ 300ppiです。
n = 3 (9マス)の時は、
(1)全色インク無し:(4色から0色選ぶ4C0 = 1通り)×1階調(=用紙色) = 1
(2)インク1色:(4色から1色選ぶ4C1 = 4通り)×(9マスに1種を配置する9通り)×15階調 = 540
(3)インク2色:(4色から2色選ぶ4C2 = 6通り)×(9マスに2種を配置する36通り)×152 = 48,600
(4)インク3色:(4色から3色選ぶ4C3 = 4通り)×(9マスに3種を配置する82通り)×153 = 1,107,000
(5)インク4色:(4色から4色選ぶ4C4 = 1通り)×(9マスに4種を配置する72通り)×154 = 3,645,000
合計:4,801,141値 ≒ 22.20 bit @ 200ppi
10マスの時は、
(1)全色インク無し:(4色から0色選ぶ4C0 = 1通り)×1階調(=用紙色) = 1
(2)インク1色:(4色から1色選ぶ4C1 = 4通り)×(10マスに1種を配置する10通り)×15階調 = 600
(3)インク2色:(4色から2色選ぶ4C2 = 6通り)×(10マスに2種を配置する44通り)×152 = 59,400
(4)インク3色:(4色から3色選ぶ4C3 = 4通り)×(9マスに3種を配置する115通り)×153 = 1,552,500
(5)インク4色:(4色から4色選ぶ4C4 = 1通り)×(9マスに4種を配置する118通り)×154 = 7,586,251
合計:7,586,251値 ≒ 22.85 bit @ 200ppi
[参考] 9, 10マスにn種を配置する組合わせ数を、組合わせの絵を描かずに計算する、ホンの少しだけスマートなやり方のメモ (GIF画像; 43,503 bytes) と それに気付く前のお絵描き版メモ(昔の16階調での計算) (GIF画像 129,658 bytes / 殴り書きのメモなので読めないかも)
という訳で、n=3(9マス)や10マスの段階で24bitにやや足りない値です(n=4を計算する気力はありませんが、24bitを軽く超える値になると思います)。つまりフルカラーに必要な解像度は、200ppi (弱)です。
ちなみに、カタログではVD専用紙で190lpi、普通紙で145lpiと記載されており、VD専用紙の値は、上記の検討とほぼ一致します。なお、普通紙の場合に145lpiである理由ですが、普通紙は表面の平滑性が劣り、インクの付着が悪く階調性が悪化することを考慮して4×4の16マス程度(多分昇華モードと同じく17マス)を1画素として印刷するためだと推定します。
昇華モードは基本のC/M/Yの3色で表現するシステムで、基本解像度は同じく600dpiです。このモードの場合は、気化した非常に細かいインクが専用用紙に浸透する方式なので、厳密にはどうか不明ですが、各色の重ねあわせは可能であると思われますから、理想的な3色プリンタとして計算すればOKです。MD-5000では、1ドットあたり16段階の加熱が可能で、それを4×4の16マスを1画素として各色256階調(= 8bit)を得ていますから、C/M/Yの3色で16,777,216色(= 24bit)が表現可能です。厳密に計算すれば、1ドットで16階調(インク無しと15段階の階調 ;マイクロドライモード欄の[*1]参照)が表現でき、それが3色重ね合わされる形です。
§1.1.2より、16階調をn2マスに配置したときの画素階調数は(16-1)×n2 + 1 なので、
( (16-1)×n2+1 )3 = 224
n = ( (28 - 1) / 15 )1/2
n = 4.1231056256
となり、約4×4=16マス(4.123×4.123≒17マス)で、フルカラーを表現できる事が分かります。その時の解像度は、約600/4.123≒145.5 ppiとなり、カタログにある145 lpiと、よく一致します。実際にMD-5000では17マスを1画素としているとの回答もあり、その場合の解像度は145.5 ppi(=600/√(17)=145.521…)です。
§2の計算はあくまで、フルカラーの場合ならこうなるという仮説に基づいた値に過ぎません。実際問題としては表現する色数と、解像度(先鋭さ)とのトレードオフがありますから、各社とも印刷した結果がヒトの目で見た時に十分な色数を保ちつつ、引き締まった先鋭さを両立する様に工夫を凝らしています。
例えば私が所有しているDeskJet 720Cの場合は、個人的に印刷テストをしてみた結果の推測として、1画素が250値程度あれば十分――256色表現しかできないGIF画像もそこそこ奇麗――と見なし、300ppiを確保することを前提としたシステムのように見受けられます(参照:DJ720Cの分解能 と 普通紙カラー印刷サンプル)および参考文献の[The Hard Copy Observer September 1997] [*1]。上記の計算から見てもフルカラーは無理そうですし…。画像データの入出力とも300ppiで行なっており、実際の印刷でも300ppiのデータを用意した場合に最良の結果をもたらすようです。
これは「カラープリンタの“解像度”とは?」の冒頭に記したように、解像度だけを強調するのが無意味なことと同じなので、その能力範囲でバランスよく配分するのが実際的且つ良い結果を生む気がします。
[*1] 参考文献の[The Hard Copy Observer September 1997]によれば、「722Cや890Cでは明確に画素辺り240色を描き分ける」および「インクの混色組合せとしては理論的には画素辺り1000色超えも可能」「しかし、1000色のうち視覚的に明確に区別できるのは240色に過ぎない」と記されており、240色程度を実現すれば十分であると考えている事が読取れます。 |
PMシリーズは所有していないので不明ですが、色数による滑らかさを最重視しているなら、上記の計算値にある150ppi程度かもしれません。でも印刷サンプルを見る限り、150ppiって事はなさそうですから、フォトインクとサイズ変更の効果で色数が確保できることを加味して、1画素に割り当てるマス目を6×3の18マス〜4×2の8マス程度に減らして240〜360ppi程度のシステムにしていると思います。もしかしたら、解像度が上がれば色数が減ってもヒトは気付かないという特性を利用して、プリンタドライバでの設定解像度に従って、表現色数を制限するように動作するのかもしれません。その辺りの調整をするプリンタドライバは、各社とも手の内を明かさないので、あくまで推測するしかありません。
印刷画像をスキャナなどで取り込む際の解像度の目安は、その画像に必要な色表現数を仮定して、§2.1〜2.3と同様な計算をすれば求まります。しかし、実際に印刷をする場合にはプリンタドライバの設定や動作も考慮する必要があります。なぜなら、(1) アプリケーションがデータを印刷解像度で再サンプリングする際に、補間に伴う歪みが発生しますし、(2) プリンタおよびプリンタドライバが上記で述べた通りの動作をするわけではないからです。
(1) 計算値が仮に150dpiや200dpiであったとして、アプリケーションもしくはプリンタドライバで選択できる解像度が180dpi、360dpi、720dpiである場合は、180dpiを選ぶのがよいでしょう[*2]。得られた計算値に最も近いプリンタドライバの設定解像度でデータを用意するのがよい結果をもたらすはずです。一致させないまでも設定できる解像度値の2, 3, 4倍や1/2, 1/3, 1/4倍のように、整数倍(倍数や約数)で用意する方が歪みの発生を抑えられると思います。なお、低解像度データ(空間周波数の低いデータ)の場合には、再サンプリング(補間)の影響が見え難いので、それほど整数倍を意識する必要はありません。
[*2] あくまで数値での議論として。例えば受け取ったデータを更に1/3程度の解像度として再サンプリングしてしまうようなプリンタドライバの作りであるなら、その3倍程度の設定で出力しなければいけません。その他、プリンタによっては360dpiや720dpi、1440dpi設定にしないとプリンタの能力を発揮するオプションが選べないなどの癖があるかもしれませんが、ドライバの動作やメーカーの意図を私が知る由もないので、議論の対象としません。
線画のように階調性の乏しい替わりに精細さを求められるものはプリンタドライバの持つ最高解像度設定のデータを用意して高解像度設定で印刷、解像度よりも階調性が重要な写真画質は低解像度データ・低解像度印刷、解像度・階調が程々なら中間データ・中間設定印刷というわけです。
(2) プリンタユーザーが、幾つの色数が欲しいと考えて計算した解像度で印刷をしても、プリンタドライバ&プリンタがそれを汲み取ってくれるわけではありません。メーカーが善しとした解像度の範囲で、パターンディザ、誤差拡散などを併用しながら可能な色を表現するに過ぎません。つまり、解像度を落としたデータを用意したり、解像度を落とすのに反比例させて大きなサイズで印刷したとしても、それに伴って色の表現能力が上がるわけではなく、ただ解像度の低い画像が得られるだけです。
実際にDeskJet 550C(300dpi, C/M/Y/Bk)でいくつか印刷してみた範囲では、解像度を下げても表現色が増えるわけではなく、256〜1024色以上は望むべくも無いと思われ、その場合での計算値139〜173dpi辺りで出力するのが妥当なようです。空間周波数の低い画像ならば100dpi程度で出力してもほとんど違いが分かりませんが、周波数の高い画像では150dpi程度でないと違いが見えます。といって173dpiで出すと却って歪むように見えます。多分これは(1)で述べた補間の影響だと思います(DJ550Cが300dpi設定しか選べないので、1/2の150dpiが歪みが少ない)。
DeskJet 720Cも出力設定は300dpiしか選べません。実際に100, 150, 200, 300, 400dpiで用意した画像を印刷して比べてみると、斜線や画像として含まれた細かい文字は300dpiで用意したものが一番良好な結果が得られます。300dpi以外のデータでは出力時の再サンプリング、またはデータの作成時点でジャギーが発生してしまい、印刷結果でもそれが確認できます。しかし、元々なだらかな変化をする(空間周波数の低い)画像であれば、200, 150, 100dpiでも十分です(仮にジャギーの発生する斜線などが含まれている場合はアンチエイリアシング、またはボカシ処理(blur)をしておけばよいでしょう)。このプリンタでは、ディテールの必要なものは300dpiで用意し、そうでないものは150dpiや100dpi、あるいは200dpiで用意すれば十分であると言えます。
結局、プリンタドライバの設計思想によって、用意する画像に求められる解像度が決まってしまう訳であり、単純な理論計算だけで求められる訳ではありません。計算はあくまで理論的な上下限を把握する目安に過ぎません。事前にテストができるのなら、いくつかの解像度で出力して判断するのがベストです。テストできない場合でも、プリンタの実解像度の画像はオーバースペックであり、1/2〜1/3の解像度で用意しておけば通常は十分です。
なお、解像度を落とす場合にも2通りあり、解像度の低い画像を等倍で印刷する方法(画像のファイルサイズは低減できる)と、解像度の低減分だけ大きなサイズで印刷する方法(ファイルサイズは変化無し)とがありますが、後者の方が概ねよい結果が得られます。
設計思想の違いとして以下のことが言えると思います。
(a) EPSONのPMシリーズ(HPの旧プリンタDeskJet 550Cなども含む)などは、画像データをハードウェアの最大解像度で受け取り、それをドライバ内部でハードウェア解像度の1/3程度の画像が得られるように再構成する思想なので、用意する画像はハードウェア解像度の1/3程度(例:ハードウェアが1440×720dpiなら、用意する画像は360dpi程度)
(b) HPのDeskJet 720C以降の製品は、(最終的に得られる画像解像度以上のデータを受け取ってもほとんど意味が無いと考えて、)最終的に得られる解像度でデータを受け取ってそれを表現し得るように微小サイズのインクを配置する思想なので用意する画像はそのまま300dpiです(実際のインクサイズから言えばDJ720Cの300ppiも1200dpiの1/4という事)。
(米HPでは1200dpiという数値を出さずにHP PhotoREt II for photo qualityと表示していたのに、日本HPが1200dpi相当という数値を前面に出していた点は、米HPの思想を理解していない気がしました。尤も、他社が解像度を前面に出す市場では、仕方が無かったのかもしれませんが。)
[2007-11-11 補足] 最近では既に銀塩写真カメラではなくデジカメがシェアを大きく伸ばし、日常的に画像を扱うのはデジカメだと思うので補足しておきます。その場合、どの程度の画素を用意すればよいのか(言い換えればどの程度の画素を謳う機種が必要なのか)と疑問を持つ方も多いでしょう。それに関しては、dpi換算してみれば直ぐわかる事ですが、分かりやすい記事がありますので、以下をお読みになると良いでしょう。結論から言えば、L版やサービス版の写真用ならば200万画素程度あれば十分なのです。
それにプロ向けを別にすれば、一般向けのコンパクトデジカメは画素競争(本質的な意味がなくても、大きな値を提示すれば、消費者はより性能が高いと勝手に判断してくれるから各社画素数を上げる競争を続ける)のせいで、各画素数が増えるせいで画素サイズはますます小さくされています。おまけに、半導体製造プロセスの都合で、CCDやCMOSセンサ(簡単に言えばIC/LSIです)の面積を小さくした方が歩留まり(1つのシリコンウェハーから取れる良品の数)が上がる(=素子価格が安くなる=儲かる)ため、CCD/CMOS素子のサイズは年々小さくされています。
そうなるとどうなるかといえば、CCDやCMOSセンサの受光許容量に余裕がなくなり白飛び・黒つぶれが発生し易くなりますし、色の階調性も落ちていき、低画素数のカメラより汚い画像になってしまうのです。つまり過剰な画素数のカメラを追い求めるのは愚かなことなのです。
[補足] 印刷に必要な画像の解像度を求める考え方としては、一ノ瀬修一の部屋で示されている「情報量保存の法則」もあります。 その「法則」では、本ページの冒頭または白黒ドットの組合せによる階調数に関する勘違いの冒頭で指摘する配置情報も含んでいるため、個人的には異論がありますが、考え方は分かりやすく、その計算で求まる必要解像度は、インクの吸収量と色数だけに主眼を置いた私の理屈による計算よりも実際値に近いように思えます。 確信はもてませんが、一ノ瀬氏の「法則」と色の重複カウントを省く考え方の中間に解があるように思われます。例えば色の重複カウントを除外する場合でも、色の距離やパターンによって含めたり省いたりする(あるいはインクの凝集の度合いが同じ物を除外する)ような、ある種の理屈を導入すると良いのではないかと漠然と考えています。 オーディオや制御の分野では1ビットまたは低ビットで低周波の高ダイナミックレンジを得る技術ΔΣ変調があります。それはいってみれば1次元方向ですが、画像の様に2次元方向でも同じことはできるはずです。もしかしたら、誤差微分・積分処理による誤差拡散を施せば、低解像度でも低周波での色再現性(つまり階調性)が確保できるのかもしれません。サンプリング数(ここではハードウェア的な解像度)が低ければ高周波側の誤差は増えてしまうことになりますが、それでも低解像度で高階調数を得ることは不可能ではないと考えられますので、ここまでで述べてきた単純な「何マスでなら階調数いくつが実現できる」と言う議論以上の階調数が実現できているのかもしれません。 |